いずれ菖蒲か杜若
5月上旬から6月下旬にかけて、菖蒲(以下ややこしくなるのでカタカナ表記でアヤメ)、杜若(同カキツバタ)、花菖蒲(同ハナショウブ)の花が美しく咲きます。派手さのない、楚々として日本的な花と言えます。タイトルの故事は「アヤメもカキツバタもよく似ており区別するのが困難で、美しいため優劣をつけがたい。」という意味です。
さて、アヤメとカキツバタの違いがよく分らない、さらにハナショウブも加わると何が何だかという方が結構いらっしゃいます。造園をやっている方でも花に詳しくないと、混同してしまっています。さらに、ハナショウブ園なのに「あやめ園」や「あやめ祭り」(アヤメ属の総称として”あやめ”と呼ぶことがあるので間違いではない)等と称しているため、よけいややこしいようです。
しかし、慣れてしまえば簡単に見分けられます。
アヤメ、カキツバタ、ハナショウブともにアヤメ科アヤメ属の多年草です。
見分け方
【1】最も簡単なものは”花”
・アヤメには花弁(外花被片)のつけ根に編み目模様がある。花期5月上旬~下旬。
園芸的な品種改良はあまりされておらず、花色は主に青紫。まれに白色。
・カキツバタには花弁のつけ根に白い筋がある。花期5月中旬~6月上旬。
園芸的な品種改良はアヤメよりは進んでおり50種ほどあるが、花色は紫の濃淡と白とその絞り。
・ハナショウブには花弁のつけ根に黄色い筋がある。花期6月中旬~下旬。
園芸的な品種改良が最も進んでおり、多彩な花色と花型がある。
【2】生育環境
・アヤメは乾いた土地。
・カキツバタは半水生か湿地。
・ハナショウブは比較的湿った土地(水中ではない)。
【3】葉
・アヤメは細長く表面は平らで筋がない。
・カキツバタは幅広く表面にわずかな筋がある。
・ハナショウブは葉の中央に隆起した太い葉脈がある。
なお、端午の節句に菖蒲湯に使われる菖蒲(ショウブ。正しくは白菖)は、アヤメ科とは全く関係のない、ショウブ科(旧サトイモ科)の多年草です。湿地に生え、葉はハナショウブに似ていますが、花は全く目立ちません。かつては田の用水路脇などに自生しているのをよく見ましたが、用水路のU字溝化や除草剤の多用等生育適応環境の減少でめっきり見かけなくなりました(写真追加)。
アヤメ
カキツバタ
ハナショウブ
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【長井紅千両】
原種のノハナショウブに近い花色と花型。三英咲き。
花弁に黄色い筋があり、葉にも葉脈がくっきりと浮かんでいます。 -
【小青空】
園芸種。六英咲といって六枚の花弁が広がる系統。
外花被片には黄色い筋があります。 -
ハナショウブの生育適地はこのように比較的湿った土地(畑地)で、水辺ではありません。ハナショウブ園などで開花時に株元に水を張るのは景観のためで、普段は水を入れません(根腐れします)。
その他
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【キショウブ】
西アジア~ヨーロッパ原産の外来帰化植物。繁殖力が強く、また乾燥地から水辺までと生育環境の適応能力が高いため「要注意外来生物」に指定されています。黄花ハナショウブの交配親でもあります。 -
【ジャーマンアイリス】
ヨーロッパで作出された園芸種。花色が多彩で虹の花とも呼ばれています。
アルカリ性の乾燥地を好むため、水はけの悪い酸性土壌では生育が良くありません。 -
【ショウブ】
ショウブ科ショウブ属。
端午の節句に菖蒲湯に使われる多年草で、葉、特に株元に良い香りがあります。
ハナショウブに葉が似ていますが、アヤメ科とは全く関係ない別物です。
近所の水辺をあちこち回ってやっと群生して自生している場所を見つけました。本当に少なくなりました。